ルルモの町にあなたがいた頃は、
あえて心の視線を外していました。
あなたは、私を救ってくれた大切な恩人。
その姿をみだりに思い浮かべないようにすることが、
私なりの、精一杯のリスペクトだったから。
でも、あなたがあの町を離れ、
それからは心の中でしか会えなくなりました。
いつのまにか、
私の中にある感謝という名の金塊が、
光り輝くダイヤモンドに変わった話は
前にも書きましたね。
あなたとの距離ができたことで、
あなたへの感謝や敬意が、
まったく違う姿の「特別な想い」へと生まれ変わっていったんです。
いや、もっと正確に言えば、
距離ができたのではなく、
距離があってももっと近くに繋がることができるようになったから。
それは、よくあるドラマのストーリーみたいな
会えなくなって、ようやく好きに気づいたという話ではなく
心の中で出会う中で、
本当にあなたを好きになっていったのです。
つまり、恩人としてのあなたから離れることで
あなたを新しく、深く想うことができたのだと思います。
それは切ないけれど、どこか温かな変化でした。
なのに、皮肉なものですね。
感情が新しくアップデートされたのに、
それを支えるあなたの記憶は、
ここへきて少しずつおぼつかなくなっていく。
あなたの声のトーンや、ふとした瞬間に見せる優しげな表情。
いつでも引き出せると思っていたディテールが、
少しずつ、記憶の隙間からすり抜けて薄くなっていく気がするんです。
新しく生まれ変わった想いなのに、
拠り所になる残像がぼやけていくのは、
やっぱりちょっと怖くて、苦しいです。
もっと、ちゃんと見ておけばよかった。
日に日に強くなる心の震えは、
少しずつ失われていく過去のスピードに負けたくない。
いま、どこにいて、なにをしているのかな。
そうして、何もできない時間だけが
目の前を通り過ぎてゆく。
だからこそ、優しく薄れていくあなたの面影を、
今はただ、愛おしく、くずれないように抱きしめるのです。
会いたいです。
苦しいほど
心からそう叫びたい。

(レセプターⅡ 第三章「会えない時間」ドラフト)