放課後の静まり返った旧校舎の屋上には、いつだって、現実離れした議論と他愛のない熱気が漂っていた。青空をめぐる軽口の裏側で、互いに特別な存在であることに少しずつ気づいていく二人がいる――。
「ねえ、レイ。私たちのこのチーム名、いっそ『ハレ同盟』にしない?」
「……は? ハレ同盟? なんじゃそりゃ。そもそもハクショウの『ハ』にレイの『レ』って……おいおい、君の考えるネーミングは相変わらず単純すぎないか?」
俺が呆れたようにため息をつくと、ハクショウは少しムッとした顔で腰に手を当てた。
「いやいや、何を言ってるの。これはただの名前遊びなんかじゃないわ。世界から雨と曇りを駆逐して、いつでもどこでも良い天気にしようっていう、壮大で実用的な話よ!」
「いや、名前の由来が単純なのに、目指すところだけやけにデカいな……」
しかし、なるほど、気象庁の予測をも凌駕するっていうわけだ。呆れつつも乗るしかない俺は、「じゃあ最初の作戦会議を開くか」と、放課後の旧校舎の屋上に用意したダンボールの祭壇の前に彼女を促した。
「で、どうやって晴れさせるの?」
「それはだな。まずはテルテル坊主を1000体吊るすんだよ。それで終わり。」
「あっ、それいいね。なんだかロマンチックだし、無心で工作してるうちにモヤモヤした気分も晴れそうだね」
「あれっ、そんなにモヤモヤすることでもあるのか?」
「……べつに、これといった理由なんかないわよ。ただ、なんとなくね」
ハクショウは少し目を逸らしながら、手元にあったダンボールの端を指先でトントンと叩いた。

それから二人はしばらく、「何色の布地で作るか」「顔の表情はどうするべきか」といったディテールで大いに盛り上がった。
しかし、一通り盛り上がったところで、現実的な壁にぶつかる。
「……待てよ。よく考えたら、旧校舎の屋上に1000体も吊るしたら放課後の見回りに即没収されるし、そもそも裁縫スキルが致命的に足りないぞ」
「たしかに…言われてみれば、レイの不器用さではせいぜい3体が限界ね……」
「何、それはそうだが、作成担当が俺一人っていうのは……」
実現性の乏しさに直面し、頭を抱えた俺は、代案を模索してしばらく考え込んだ末に、ふとひらめいたように顔を上げた。
「こうなったら仕方ない。自然に働きかけるのではなく、俺たちの『熱気』で雲を蒸発させるのさ。つまり、全校生徒に激辛カレーを配るんだ!」
「――って、おい!」
ハクショウは持っていたノートを静かに閉じ、じっと俺を見据えた。その瞳には、呆れというよりも、あまりの斜め上の発想に対する呆然とした深みと、射すくめるような鋭い迫力があった。
「……ねえ、レイくん。今、なんて言った? 全校生徒に激辛カレーって……それ、完全に普通の天気の話に戻ってない? どこをどうやったら、そんなもので空の雲が蒸発するわけ?」
「……たしかに、そんなわけないよな」
俺がタジタジになりながら頭をかいていると、ハクショウはふっと肩の力を抜き、やわらかく、しかしどこか見透かすような笑みを浮かべてこう言った。
「ううん、違うのよ、レイ。『そんなわけない』っていうのは、物理的に激辛カレーで雲が蒸発しないことに対してじゃないわ。……そもそも私、最初から空の天気の話なんて一言もしてないもの」
「え……?」
不意を突かれた俺が間の抜けた声を上げると、ハクショウは少し照れくさそうに視線を泳がせながらも、まっすぐに俺の目を見つめ返した。その胸のうちは、呆れの仮面の裏で、少しばかりの緊張と、どうしても伝えたかった本音が静かに波打っているようだった。
「……違うわよ。これはね、私たちがいつでもお互いの心の天気を『晴れ』にするための、大事な約束なのよ」
「でも、たしか、世界の……と言ってたよね」
「うん、つまり、二人の世界ね。私たちの間で、世界と言えば二人のことでしょ。だからこそのハレ同盟」
「た、たしかに、おっしゃるとおりです……」
☆本日はイレギュラーな処理が重なったため駅ビルには行けませんでした(泣)。