それは、目には視えない、けれど確かにそこにある力。
レイとハクショウをつなぐ、不思議な光の呼吸——煌力(こうりょく)。
レイには、誰にも話したことのない感覚がある。
それはハクショウとの心のつながりを表す、レイなりの呼び名だった。
たとえ距離があっても、ふとした瞬間にあの人の気配がフワッと届く。
胸を甘く押さえつけるような、不思議でやさしい感覚。
レイにとって、それは日常の中のささやかな奇跡だった。
そんな二人には、大切な場所があった。
ルルモの森。
そこは、都会の片隅にひっそりとある場所。
レイの目にはそこがまるで緑に満ちた美しい森のように映る。
実際には、大きなビルの中、多くの人々が集まり、歩き回る場所に過ぎないのだけれど、
レイにとっては、そこはまるで夢のように美しい場所だった。
でも最近、レイはその森からも、そしてハクショウからも、遠ざかっていた。
理由はわからない。ただ、きっと煌力が弱くなっていたのだ。
いつもなら、離れていてもふと感じるハクショウの”気配”が、あの日を境に薄れかけている。
その感覚の変化に気づいたとき、レイはハッとした。
「もしかして、ハクショウ、あれからルルモの森に来ていないんじゃないか?」
そう思った途端、心がざわつく。
もし、そこにハクショウがいないのだとしたら――なにかあったのかもしれない。
「ハクショウは元気でいるだろうか?」
レイは心配になり、自分自身も、すっかり森から離れてしまっていたことに気づく。
それでも、怖くて森には行けなかった。
会えなかったときの寂しさが、自分でも思っている以上に深いことを知っているから。
その代わり、レイはじっと心の中に意識を向けた。
ハクショウが元気でいることを祈りながら。
そして、それから何日かした、深夜の目覚めの中。
その後、朝が来て、今日の昼頃。
ようやく風の匂いが、ほんの少しだけ、森の記憶を運んできた。
それはまるで、かすかな光が霧の向こうに浮かぶような感覚だった。
「……もしかして、ハクショウ、ルルモの思い出に触れてくれているのかなあ?」
その瞬間、レイの胸の奥にしまっていた気持ちが、一気にあふれ出した。
強い煌力が戻ってきたことは、単なる偶然ではない。
何かが、変わりはじめている。いや、変えなければいけない。
もう一度、ルルモの森へ行きたい。
あの場所で、ちゃんと会いたい。
でもそれが許されるだろうか・・・
――だって、あの時、あの場所で、ふたりの間に、言葉にできなかった障壁を感じたから。
心のどこかで、自分に自信が持てなかった。
だから、怖かった。
でもそれでも、今は会いたい。
今まで幾度となく、心の中だけで交わした思いを、
今度はちゃんと言葉にして伝えなきゃ。
でも、どうすればいいのだろう。
ハクショウにどう伝えれば、傷つけることなく、素直に伝えられるのか。
風の音がふっと耳の奥で揺れた気がした。
まるで、あの日の森を思い出させるように——
輝ける過去の記憶。
柔らかな木漏れ日が地面を模様のように照らしていた。
光と影が重なり合って、森全体が静かに息をしていた。
木々の間から差し込む風に、ハクショウの笑顔が溶けていく。
言葉は少なかったのに、心はあんなにも近くにあった。
あの場所にいた自分は、もっとまっすぐだった。
怖がるより、信じることを選んでいた——
……いまの自分は、どうだろう。
迷いや戸惑いがないわけじゃない。
それでも、勇気を出せば、ほんの少しだけ、あのときのまっすぐさに手が届くはず。
心の奥に灯る想いは、今も消えていない。
むしろ、時を越えて、静かに強さを増している。
だから。
たとえ、まだ心に震えが残っていたとしても。
たとえ、もっと傷つくことがあるかもしれなくても。
それでも、どうしても変わらない想いがある。
それでも、もう一歩、踏み出してゆかなくては。
ハクショウに、会いたい。
#One step closer: 「少しずつでも前に進もうとしている」「ためらいながらも踏み出そうとする決意」
☆明日、久しぶりにリアルな公式記事を掲載します!(予定)