本年も多くの方々に本当にお世話になりました。
心より御礼申し上げます。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。

天界の図書室には、ひとつだけ入口があった。
その正面に受付があり、
そこに立つ管理人が、ハクショウだった。
レイは、ハクショウがいるときには、
なるべく受付の前を通らないようにしていた。
知っているのに、気づかないふりをして通り過ぎるのは失礼だし、
だからといって、用もないのに毎回声をかけるのも、
かえって鬱陶しいのではないかと思っていたからだ。
その日、図書室に入ったとき、
受付にはハクショウの姿が見えなかった。
レイは奥へ進み、
いくつかの図書を手に取り、
ページをめくりながら、静かな時間を過ごした。
どこにも、あの気配は感じられない。
今日は、いないのだろう。
そう思って、
レイは受付の前を通ろうとした。
その瞬間だった。
ふと気配を感じて顔を上げると、
いつの間にか、ハクショウが受付の外に立っていた。
少しだけ驚いた。
けれど、不思議と慌てることはなかった。
短い言葉を交わすことができた。
ハクショウは言った。
今日は受付の担当ではないけれど、
記録の数を確認しに来ただけだ、と。
レイは、ほんの一瞬ためらってから、
「今度、話がしたい」、と伝えた。
ハクショウは、
小さくうなずいて、
「ありがとう」と答えた。
その直後、
天界からの通信音が響いた。
「呼ばれてしまった」
そう言って、
ハクショウは奥へと戻っていった。
残された受付の前には、
さっきまで確かにあった気配だけが、
静かに消えていった。
華やかな光も、祝福の歌もない。
けれど、確かにそこには、
何かが刻まれた気がした。
約束をしたわけではない。
待ち合わせたわけでもない。
それでも、同じ場所で、同じ時間に、
偶然のように出会えた。
そして、ほんの短い言葉を交わした。
次に会う日も、
話す内容も、
何ひとつ決めていない。
ただ、
「今度、話をする」
それだけが、
二人の間に、静かに置かれた。
それは約束と呼ぶには、あまりにも小さい。
けれど、なかった世界には、もう戻れない。
レイは、その重さを知っていた。
だから、何も振り返らずに歩き出した。
あの日から、
明日でちょうど一年が経つ。
レイは、ときどき思う。
あのとき声をかけたのは、
未来のためだったのか、
それとも、
あの瞬間を失わないためだったのか。
ただ一つ確かなのは、
あの小さな言葉が、
いまもレイとハクショウを、
静かにつなげているということだ。
(レセプターⅡドラフト版)