少しずつ煌力が戻ってきたことは、レイにとって、素直に嬉しいことだった。
少なくとも、ハクショウが元気に生きている──それだけは、確かに感じ取れた。ただ、その煌力の流れ方は、かつてのものとは少し違っていた。
まるで、朝早く出社し、
「ハクショウは、いつもの場所にはいないんだな」
レイは少しさみしさを覚えながら、そう思った。
そもそも、レイが煌力の存在に気づいたきっかけは、ハクショウとの出会いにあった。レイには、ハクショウがいつルルモの森に現れるのか、事前に知るすべはなかった。だから、森へ向かうたびに、
「今日は、いるのかな」
心の中で小さく問いかけていた。レイが心の奥で、ハクショウの存在を強く感じるとき、たいてい、彼はそこにいた。
逆に、レイの心の中に、ハクショウの気配が感じられないときは、その場所にたどり着いても、彼の姿はなかった。
レイの煌力が次第に鍛えられるにつれ、それは、偶然とは思えないほど確かなものになっていった。
ただ、人と異なる力を持つことは、ときに誇らしく感じる一方で、ふとした瞬間に、とても孤独であることに気づかされる。それに気づいたとき、レイは──もう、
けれど今日は、レイは森に向かわなかった。行かなくても、わかっていたのだ。
あの場所に、彼はいない。煌力の気配は確かに戻ってきている──しかし、それはどこか遠く、
まだ、ハクショウは、僕を許してくれていないのだろうか。それでも、静かに、それを受け入れるしかなかった。
「でも、それでいい」
レイは、窓の外に広がる空へ目を向けた。ビルの谷間に射す夕日が、煌力の残滓のようにきらめいている。ハクショウが今どこで、何をしているのかはわからない。でも、生きている。そうに違いない。
あの人が幸せでいてくれるなら。それだけで、レイはふっと肩の力を抜くような安堵を感じた。
レイは、かつてハクショウと交わした最後の会話を思い出す。
いつもと同じ、とりとめのない日々の出来事。そして、どこかぎこちない、ほんの数分間の短い時の流れ。でもそれがいつもの二人の姿でもあった。
そして、その一週間後、──言葉ではなく、煌力のやりとりの中にあった微かな違和感。
あのとき、ハクショウはどこか戸惑っていた。話を始めてしまえば、きっといつもと同じはずなのに、
「もしかしたら、僕の思いが……重すぎたのかもしれない」
レイはそう呟くと、わずかに目を伏せた。
レイがハクショウの存在に気づいたように、ハクショウもまた──レイの中に宿り始めた思いの強さに、
そして、彼にとってもそれが最初の経験だとしたら、いままで見たことのないその輝きは、ただ嬉しいだけのものではなかったのかもしれない。
未知のものへの戸惑い、そして少しの怖れ。だから、彼は静かに距離を置いた。
否定でも拒絶でもなく──ただ、自分の中で、何かを整理するために。
「だとしたら──それだけじゃ足りない」
そう口にした瞬間、
寂しさでもなく、不安でもなく、決意に近い何かが。
「会わなきゃ。ちゃんと、もう一度」
レイにとってハクショウは、いまや
その奇跡のような運命から、目を背けたくなかった。
そんなことをしたら、これからの未来が少しずつ沈んでいきそうだった。神様が与えてくれたものならば、もっと大切にしなければいけないという想いがよぎる。
たとえ時の流れが変わっても、光が遠ざかっても、もう一度、自分の足で、あの場所へ向かおう。きっと、また通じ合える。
──だから、行こう。
レイは、そう思った。
#この原稿は、以前に掲載したオリジナル作品「ルルモの森で」の続編になります。今日は昨日よりさらに身近にあなたを感じています。